『葬儀!』著・ジュリエット・カズ 訳・吉田良子 柏書房(2022年)
文化人類学者の著者が、文化人類学と考古学の知見から世界中のさまざまな葬儀について紹介する1冊。著者の出身地であるフランスをはじめ、シチリア、ボリビア、メキシコ、チベットなどの葬儀が取り上げられている。
つい先月、イギリスのエリザベス女王の国葬をネット配信で観ました。もちろんイギリスはキリスト教(イギリス国教なので他の国とは違う点もありますが)で、日本の仏教+神道式のお葬式とは全然違う形で行われることは承知していましたが、実際に観てみると1時間の式の中で何曲も讃美歌を歌っているのに驚きました。中にはエリザベス女王とフィリップ殿下の結婚式で歌われた曲もあったそうです。
そして聖書の朗読と、女王の功績と聖書を絡めた、所謂説教も行われていました。日本のお葬式で言うと読経のようなイメージでしょうか。観ていた配信はイギリスのもので特に解説も字幕もなかったので、全ての話を聞き取れた訳ではないのですが、その中で "We will meet again." という締めの言葉が印象に残りました。
キリスト教はいずれ神の国がやってきた際に、死者は肉体ごと復活するという教えなので、確かにそう言うフレーズがあること自体は納得できますが、日本人の感覚(輪廻転生とか極楽浄土とか、色々ありますけど)からすると、お葬式のお経の中に「また会いましょう」と言ったようなフレーズが出てきたら驚くと思います。(そもそも輪廻転生思想であれば、また人間に生まれ変わるのは解脱できていなくて徳が足りていないことになりますし…)
前置きが長くなりましたが、そうしてつい最近、別の文化圏のお葬式に興味を持ったところで出会ったのがこの本。ポップな装丁と「!」が最も縁遠そうな言葉が、ポップで「!」になっていることに興味を惹かれて手に取りました。
普通、こういった内容の本は論文のような固い文章のものが多く、途中で挫折してしまうことが多いのですが、この本は学術的な視点と作者の主観が程よく混ぜ込まれていて、エッセーのように柔らかい書き口で読みやすかったです。
取り上げられているさまざまな文化圏の葬儀はどれも興味深く、特にシチリアのカタコンベに並べられたミイラ、ボリビアの頭蓋骨信仰が特に印象に残りました。日本は火葬ですが、この本の中で取り上げられている葬儀の方法にほぼ火葬がないことにも驚きました。
この本の最初に著者は葬儀を知ることはそこに生きている人々の信仰や思想を知ることだと述べています。私自身お葬式は生者が気持ちに区切りをつけるためのものだと思っています。その区切りの付け方にそれぞれの信じるもの、基盤となるものが現れると。でもそれだけでなく、大規模で丁寧な葬儀を行うことで社会経済的地位を誇示できる共通点があるという話は目から鱗でした。
言われてみれば確かにエリザメス女王の国葬はその最たる例。女王の権威を示すと同時にイギリスの権威、ひいてはロイヤルファミリーの地位を示す機会となったでしょう。
この本で最後に取り上げられていたのは日本のロボット葬。私はこういった形の葬儀が日本にあることを知りませんでした。そこで紹介されているのは著者から見て特異に映ったもので、普通の日本人的には馴染みのないものが多いのですが、海外の人から見て日本がどう言う風に見えているのかを知ることができます。
海外から見ると、日本人が信心深く見えているのって面白いですよね。
今は伝統に則った葬儀以外にも、樹木葬とか散骨とか、果ては宇宙葬まで、さまざまな選択肢があります。その中で家族や自分のためにどのような形での葬儀を選ぶのかを考えることで、自分自身の価値観を再発見できるのではないでしょうか。
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